六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編166】打ち捨てられる、設定6

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胸の前で二つのドル箱を重ねて持つ五十嵐さんは、おっかなびっくりといった様子でコインジェットの脇にそれを置いた。その後ろにいた裕子が、近くにいた店員を呼び止めてコインジェットを指差した。私と木部が歩み寄ると、裕子は憮然とした表情で口を開いた。

「常連さんにあげちゃったよ」

「何を?」

私が訊き返すと、裕子は口をぽかんと開け、眉間にしわを寄せた。

「この娘が打ってた台だよ!せっかく『6』だったのに!」

「あっ」と小さく声が出てしまった。さっき思い出せなかったことが何なのか、今ハッキリした。五十嵐さんがジャグラーをヤメるのであれば、私がその台を打てばいいだけだったのに。私は前髪のあたりに手を突っ込んで頭を掻いた。

「とりあえず携帯か何か下皿に……」

「置いとくわけにもいかないでしょ!?掛け持ちになっちゃうんだから。いつも『ホールのルールは守れ』って言ってるの、正吾じゃん」

確かにその通りだ。私は自分の頬に手をあて、コインジェットへと目をやった。カウンターの数字が1000を超えていた。

「どうしようかと思ってたら、常連のおじさんが『ヤメるんですか?』って訊いてきたからさ、どうしようもなかったよ」

まくし立てる裕子を見て、五十嵐さんが恐る恐る口を開いた。

「あの……わたし、ヤメちゃダメでしたか?」

私と裕子はかぶりを振った。

「気にしないでいいよ。正吾がボーっとしてるのが悪いんだから」

裕子が私の胸元に人差し指を突きつけた。いささか納得いかない点もあるが、ここは飲み込んでおくことにした。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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