六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編168】『やりおった!!』

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裕子の質問に、しばらく考えを巡らせた。だが、答えは木部の中にしか存在しないことは明白だった。私は小さく首を振った。

「わからない。でも確実なことが二つある。ひとつは月20万プラスというノルマを達成したという点。もうひとつは……」

不意にドル箱が膝の上でぐらついた。私は慌てて両手でそれを押さえ込んだ。ガチャンと少しうるさい音が鳴ったが、幸いにもコインを床にぶち撒けるという大惨事は未然に防ぐことができた。私は裕子と顔を見合わせ、胸を撫で下ろす仕草をしてみせた。

「ふたつ目は何よ?」

裕子が続きを催促する。私はもったいぶるように指先で顎を掻いた。

「ふたつ目は……最高の『ノリ打ちパートナー』を獲得したってこと」

私がそう言うと、裕子は呆れたように眉を上げた。

「あの娘がそんなことすると思ってんの?元々はパチスロのことも毛嫌していたんだよ?」

「得てしてそういう人ほど、どっぷりとハマっちゃうものさ。それに、木部という最高の師匠がいるんだから」

下皿のコインを全てドル箱に詰め終わり、私は席を立った。

「とりあえずコレ流して木部のとこに行くよ。どうする?」

裕子は、もう少し打ったらヤメてそっちに行くと言った。私は頷いてコインジェットへと向かった。重厚さに欠ける音と共にコインが吸い込まれていく。『620』と印字されたレシートを受け取ると、木部と五十嵐さんのいる『巨人の星』のシマの方に顔を向けた。

その時、酒で喉をやられた壮年期の男のがなり声が、遠くからかすかに聞こえた。

――『やりおった!!』

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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