六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編174】和○レベルのブラック企業

←BACK【師弟編173】本当にスロプーとして生きていくつもり?
木部は困ったように顎を掻き、斜め上に視線を投げた。その時、店の自動ドアが空いた。何人かの客たちと共に『蛍の光』が店の外に流れ出してきた。これまで何度も聴いた曲なのに、今日はなぜか、いつもよりメロディーが悲しげに聴こえた。

「ブラックですよね」

不意に、木部が口を開いた。突然発せられたその言葉の意味が理解できず、私は「は?」と言うのが精一杯だった。

「俺も就活でかなりの数の企業を見てきましたけど、トップクラスですよ」

「だから何がだよ?」

私が訊き返すと、木部は口角を上げてぽつりとつぶやいた。

「ブラック企業ってことですよ、スロプー稼業が。居酒屋チェーンも真っ青の労働環境じゃないッスか」

ニヤリと笑う木部を見て、私もつられて笑みを浮かべてしまった。木部は一瞬だけ五十嵐さんと目を合わせてから続けた。

「毎日、満員電車に揺られて朝九時にはホールに着いてなきゃいけない。場合によってはもっと早い」

木部は肩をすくめるような格好をしてみせた。

「それくらいなら普通の会社員も同じですけど……。クソ暑い日もクソ寒い日も、人目に晒されながら一時間も二時間も並んで……そこから働き詰めで、店を出るのは23時。13時間労働ですよ。目も肩も腰も痛めて、そこまで頑張っても月二十万円にしかならない。ヘタすれば給料がマイナスになることもあるんですよ」

私は笑みを作って小さく頷いた。

「こんなブラック企業に就職するくらいなら、もう少し頑張って就活続けてみます」

木部は力強く言い切った。その隣で五十嵐さんは、ぼんやりと中空を見つめていた。

さっきまで吹いていた冷たい風は、いつの間にかやんでいた。

→NEXT【師弟編175】反故にされた、約束

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

3月≫
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

戻る