六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編18】弟子にしてくださいよ……

←BACK【師弟編17】無い内定の先にあるもの

「だから、起業するっていっても、何やるんだよ。何にも無いんだろ?」

「スロットですよ!俺もスロットで喰えるようになりますよ!」

「やめとけって!お前、人生棒に振るぞ!」

「俺にスロット教えた張本人が何言ってるんですか!それに先輩たち、人生楽しそうじゃないですか!」

木部はひょっとこのように口を尖らせた。私はなんとなく次の言葉を紡げないでいた。確かに木部にスロットを教えたのは私だった。木部は持ち前の頭の良さで、すぐにスロットの理屈を理解した。完全確率や期待値という考え方も、理系の木部の心をくすぐったようだった。そのおかげで、木部はさほど負けることも、かといってのめり込むこともなくスロットと付き合っていた。それが今になって、あらぬ方向へと走り出そうとしていた。これが酒の力を借りた一過性のものならばよいのだが。

「木部、仮にだ。仮にお前がスロットで勝てるようになったとしても、俺らは別に会社作ったりしないぞ?」

「いいですよ!それなら俺一人で起業しますから。起業の資本金稼ぎのためにもスロットで勝つんですよ!」

「お前……就職もしないでスロットやるなんて、親に言えんのか?」

我ながら滑稽な物言いだと思った。自分と同じ事をやろうとしている若者を必死で止めようとする。そして、その説得のために吐き出す言葉のひとつひとつが、ブーメランとなって私の心に突き刺さる。私は自分の現状を親にも言えず、現在進行形で人生を棒に振っているのだ。

木部は私の目をじっと見て離さない。私は困ったような表情を作って、視線を重ねた。裕子は我関せずといった様子で右手を上げて店員を呼んだ。店員に何品かの追加注文を伝えたところで、木部が口を開いた。

「じゃあ……、弟子にしてくださいよ」

私は頭を抱えた。木部、お前は呑み過ぎだ。

→NEXT【師弟編19】スロット界の『明石家さんま』

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

9月≫
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

戻る