六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編19】スロット界の『明石家さんま』

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「何を言っているの理解できないけど、理解できたとしても答えはノーだ!」

私は酒の勢いにまかせて口から泡を飛ばした。木部の口から次々に飛び出してくる荒唐無稽な話に、少々イライラが募り始めていた。

「いいじゃないッスか!彼女さんにも教えてプロにしたんでしょ?俺にも教えてくださいよ!」

「別に、裕子は勝手に……」

私は隣を見やった。それまで無関心を決め込んでいた裕子は、私と木部の顔を交互に見てから、握りこぶしを振り上げた。

「そうだそうだー!弟子にしろー!」

「はぁ!?」

裕子が屈託ない笑顔をこちらに向ける。どういうつもりか知らないが、無責任にもほどがあるだろう。

「ほら!彼女さんも言ってるじゃないですか!」

「いいじゃん、教えてあげるくらい。それともアレですか、正吾は弟子を取らない主義ですか?」

「そうですよ!それともなんですか、先輩はスロット界の『明石家さんま』ですか?」

「アレ?ジミー大西ってさんまの弟子じゃなかったっけ?」

「いや、ジミーちゃんは運転手だったけど弟子ではなかったらしいですよ」

「へー、そうなんだ。あーあ、スロット界の明石家さんまが弟子を取らなかったばっかりに、未来ある若者が路頭に迷っちゃった」

「ホントですよ!俺、就職もできないしスロットもできない。もう餓死するしかないですよ!」

「あーあ、餓死しちゃった。正吾の薄情さによって、今ひとりの若者の命が絶たれました。アーメン」

裕子が胸の前で十字を切ると、木部は背もたれに身体を仰け反らせて白目を剥いてみせた。裕子はそれを見てケラケラと笑った。さっきまでろくに会話も交わしていなかった二人の寸劇が終わると、私はおしぼりで顔を拭い、そのおしぼりをテーブルに軽く叩きつけた。

「とにかく!俺は弟子なんか取らん!」

思わず語気を荒げてしまい、二人がこちらを見たまま固まってしまった。少し熱くなり過ぎたかと思っていたら、裕子が私の顔を覗き込んできた。

「それ……誰のモノマネ?」

「大滝秀治だとしたら、全然似てませんよ」

今夜は前後不覚になるまで呑むと決めた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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