六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編54】「こちらの女性、どちらさま?」

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私たちは一言も会話を交わさずにエスカレーターで一階まで降り、店の外に出た。真っ昼間の渋谷は人でごった返していた。比較的人通りの少ない細い裏路地の方を私が指差すと、それに促されるようにボブカットの女性は颯爽と歩き始めた。その後ろを歩くと、ボブカットの髪から僅かに溢れる香水の香りが、私の鼻孔をくすぐった。

その香りに夢見心地になっていると、突然、ボブカットがくるりと振り返った。私が慌てて立ち止まると、後ろからついて来ていた裕子が私の背中に追突した。

「わりぃ!」

「急に止まんないでよ!」

私たちのやりとりを見て、ボブカットの中の顔が少しだけほころんだが、その顔はすぐに表情を失った。渋谷の喧騒の中で私は息を呑んだ。次の瞬間、ボブカットの中の唇が、静かに震えた。

「あの……先日はどうも」

「はぁ?先日?」

深々と頭を下げるボブカットの言葉に、私は激しく困惑した。同時に、私の腰のあたりを小さく摘んでいた裕子の手が静かに離れていくのを感じた。

「正吾……こちらの女性、どちらさま?」

裕子は頬を僅かに引きつらせて私を睨みつけた。まるで物的証拠を掴んだあとに犯人に自白を促す刑事のような雰囲気だ。無実の罪を着せられそうになった私は、弁護士を呼ぶこともなく、慌てて自己弁護を始めた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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