六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編55】「やめていただきたいんです」

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「いや……えぇ!?ちょっ……先日って。失礼ですがどこかでお会いしましたっけ?」

私は狼狽した雰囲気を出しつつ、あえて他人行儀な口調で尋ねた。

「一昨日、こちらのお店のエスカレーターで一瞬だけすれ違ったのですが……覚えてらっしゃいませんか?」

もちろん覚えています……とは、裕子が隣にいる手前、言えるはずもなかった。私はわざとらしく取り繕った。

「あー、一昨日だったら確かに僕たちこのお店に来てました。なんかすれ違ったような記憶があるような無いような……ねぇ裕子?」

私は大げさに口角を上げ、裕子の顔を見た。裕子は眉根を寄せ、右の頬だけをぷっくりと膨らませたまま、ボブカットの中にある顔を覗き込んだ。そして大きくゆっくりと首を傾げた。

「覚えてないの?俺らがエスカレーター降りてる時に逆側を上がってきてた人だよ!」

私の必死の説明に、裕子は「ふーん」とばかりに顎をしゃくった。

「アタシは覚えてないけど……。よくそんな一瞬の出来事を克明に覚えていらっしゃいますね、お二人さん」

裕子のトゲトゲしい敬語で、三人の空気がますます張り詰めた。裕子は身じろぎもせずボブカットの中の瞳を見つめている。ボブカットも一歩も引かないといった様子だ。静かな一触即発の事態に、私はたまらず口を開いた。

「と……ところでご用件は?」

私が尋ねると、ボブカットは真っ直ぐとこちらを見た。

「もう、やめていただきたいんです」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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