六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編78】「気に入らない!」

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裕子の言葉に、五十嵐さんは口の中で歯を食いしばったように頬が僅かに歪んだ。裕子はかまわず続けた。

「そもそもアンタ、パチスロ打ったことあるの?」

「あるわけないじゃないですか!あんな、くだらない……」

食べかけのグラタンコロッケバーガーを握ったまま、二人はしばらく睨み合った。まさか取っ組み合いの喧嘩になるとは思わないが、不測の事態に備えて、私は両手をナプキンで拭いて椅子に座り直した。すると、裕子は背もたれに身体を預け、あごを突き出して五十嵐さんを見下ろすような格好で、言った。

「なんでアンタのことが気に入らないのか、分かったような気がする」

裕子の口から飛び出した――気に入らない――という言葉に、五十嵐さんはにわかに気色ばんだ。

「どういうことですか?別に気に入られようとも思ってませんけど」

背筋を伸ばして毅然とした態度で問いただす五十嵐さんに、裕子は持っていたグラタンコロッケバーガーをトレイに置いてから視線を絡ませた。

「パチスロ打ったことも無いくせに頭ごなしに否定してるのが気に入らない。そんなことだから、木部っちがパチスロにハマった理由も理解できないんだよ」

「そんなの……やったことなくてもなんとなく分かりますよ。結局は逃げてるだけじゃないですか、就活から。お二人だって似たようなものでしょう?」

五十嵐さんは僅かに語気を強めた。裕子は憮然とした顔で頭を掻き、視線を落とした。

「だからー、やっちゃダメって言うからやっちゃうんだよ……」

裕子は肩を落として深いため息をついた。カウンターの向こうからフライドポテトの出来上がりを知らせる音楽が聞こえてきた。いつ聞いても素っ頓狂なメロディーだ。

三人の間に流れた短い沈黙に終止符を打ったのは、裕子の意外な言葉だった。

「これ食べ終わったら、一緒に打とうか」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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