六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編86】1枚掛けでは1ライン

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裕子はまるで舞台監督が役者に演技指導でもするかのように言い放った。その言葉で、五十嵐さんの顔に僅かに浮かんでいた笑みも消えてしまった。五十嵐さんは真剣な表情でリールを凝視した。

一枚掛けでは中央の横一直線しかラインが有効にならない。そのため、初心者に目押しをさせるのであれば、コインロスは多くなるが三枚掛けにしてあげるのが優しさというもの。そんなことは重々承知しているはずだが、裕子は当然のように一枚掛けでレバーを叩いた。

そんな裕子の行動に私は困惑しつつ、五十嵐さんの肩越しに声を掛けた。

「『7』見えますか?」

「……コレって、本当に見えるんですか?」

五十嵐さんはリールを見たまま小首を傾げた。

「『7』の赤い色が一瞬通り過ぎるんですよ……ホラ、ココ」

私は流れるリールに合わせて指を上から下に動かしてみせた。それにつられるように、五十嵐さんの首が小さく上下に動き始めた。

「まぁ揃わなくてもいいから、とりあえず適当に狙ってみましょうか」

耳元で言った私を無視するように、五十嵐さんは口元に右手をあててしばらくリールを凝視し続けた。リールが5周ほどしたところで、不意に私の方に顔を向けた。顔と顔の間の距離が数センチまで迫り、私は慌てて身体を引き起こした。動揺する私をよそに、五十嵐さんは小さく手招きする仕草をして、私の耳元に顔を寄せてきた。

「なんか……見えるような気がします!」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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