六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編87】直視できる、初心者

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五十嵐さんの発言に少し驚きつつ、私は聞こえるか聞こえないかの声で「それならどうぞ」と言い、リールを指差した。それに促されるように五十嵐さんは台に身体を向け直した。

「見えるってさ」

怪訝そうな表情で見守っていた裕子に耳打ちすると、裕子は露骨に顔を歪めて「ウッソー!!」と大声をあげた。私は諫めるように裕子の頭を軽く小突いた。

確かに、全くの初心者が目押しをするのは難しい。私自身、初めてパチスロを遊技した時はリールの図柄が見えるなど、にわかには信じ難かった。だが、何度か練習するうちに少しずつ見えるようになったものだ。しかし、中には最初から直視――リールの全ての図柄がハッキリと見える――という人もいると聞いたことがある。

まさか……と思いつつ五十嵐さんの台に視線を戻す。刹那、左リールのストップボタンが押された。ピロッという間抜けな音と共に、中段に『7』が停止している。

五十嵐さんは驚きもせず、かといって喜んだ素振りも見せずにすぐさま中リールを睨みつけた。リールが三周ほど回ったところで、人差し指をストップボタンに振り下ろした。まるで当然のことのように、中段に『7』がテンパイした。五十嵐さんは納得するように小さく二度頷いた。

五十嵐さんは右リールを見つめ、ストップボタンの上に優しく指先を添えた。右リールは『7』と『BAR』が連なって一箇所に配置されている。五十嵐さんの頭がその塊と同期するように、上下に動き始めた。間違いない、五十嵐さんは『見えている』のだ。

次の瞬間、けたたましいファンファーレが三人を包んだ。リール中段には、まるでプロモーション用の写真のように、綺麗に『7』が一直線に並んでいる。

五十嵐さんは大きく息を吐きだして背もたれに身体を預けた。その顔は今までに見たことのない晴れ晴れとしたものだった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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