六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編01】隠し砦の四若人

←BACK【失踪編35】男がスロ屋の女を愛する時【その後4】

「もし、宝くじで3億円当たったらどうする?」

右の奥歯で割り箸を噛みながら、森下さんがポツリとつぶやいた。

「うわー!そういう話大好きれすよ!どうすっかなー?俺は旅行かな。世界遺産を巡る旅をーしてみたいれぇー」

杉本さんは泥酔してろれつが回っていない。

「いいねー、杉本らしいね。じゃあ寺山は?」

「俺?俺は……とりあえず貯金して、優雅な執筆活動をしていくね」

立て肘をついた右手に顎を乗せ、見下ろすような目つきで寺山さんが答える。

「夢無いなー。そんな奴が書いた小説なんか読みたくないわ」

「うるさいよ。俺の勝手だろ!お前はどうなんだよ?」

寺山さんは、少し怒ったような口調で森下さんに訊いた。

「俺は……とりあえず彼女と結婚して……」

「あ、もういい、それ以上聞きたくない」

寺山さんは、顎を載せていた右手を手刀に変え、顔の前で振った。

「聞いといてなんだよ!じゃあ長崎くんは?」

「僕ですか?僕は……」

三人の視線が私に向いた。

「そうですねぇ。自宅にスタジオ作って、好きな音楽だけ作って生活していきたいですね」

「うわ!なんかカッコイイね!夢あるよ!」

そう言って、森下さんはお通しの酢の物をレモンサワーで流し込んだ。

21歳の春、私は雀荘『ライズ』を辞め、都内にある有名私立大学の売店でアルバイトを始めた。売店と言ってもその規模はかなりの大きさで、大学生活に必要な文房具や書籍の類いはもちろんのこと、雑貨や食料品、果ては旅行の申し込みまでなんでもござれというものだった。

私はその中で、CD売り場を任されていた。採用面接の際に、少し音楽をかじっていることを口したら、それならばということになったのだ。といっても、担当するCD売り場というのは、書籍の販売スペースの一画を少しだけ間借りしているような、実に小規模のものだった。

仕事が終わると、書籍売り場の担当をしている寺山、杉本、森下の三人と居酒屋「一休」で酒を酌み交わすのが常となっていた。この三人は同大学の文学部を卒業して、そのままこの売店でアルバイトを続けているとのことだった。

「だって長崎くん、アレなんでしょ?ボーカルの女の子、デビューしたんでしょ?」

「いや、アレは別に……」

→NEXT【恋慕編02】机上の音楽

  • 春、新入生は眩しい。春、新入生は眩しい。

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

6月≫
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

戻る