六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編03】リアル・モラトリアム

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「いや、プロなれるって!頑張りらさいよ!」

杉本さんが肩をバンバンと叩きながら煽ってくる。この人は、私が本気で音楽をやろうとしていないことを見透かしているのだ。

「杉本さんはどうなんですか?新人賞応募するって言ってたじゃないですか?アレはどうなったんですか?寺山さんも同じヤツに応募するって言ってましたよね?」

私は二人に矛先を向けた。二人は小説家を目指して日々執筆活動に勤しんでいると聞いていたが、仕事が終われば毎日のようにこの『一休』で管を巻いていた。

「あぁ、アレはね……ちょっとカラーが違うかなと思って、今回は見送った」

「そうそう!そうなんれすよ!音楽家のれ、長崎くんはれ、知ららいかもしれないけどれぇ、新人賞にもそれぞれ特色ってもんがあるんれすよ……」

「ってことは、書いてないんですか?」

「……次の作品の構想練ってるところだよ」

寺山さんがそう言うと、杉本さんは同意するように机に突っ伏したまま二度頷いた。

「森下さんはどうなんですか?去年書いたっていう例の脚本から、次の作品読ませてもらってないですけど」

「あ、あぁ。まぁね。仕事が忙しくてさ……あ!お姉さん!レモンサワーおかわり!」

森下さんは空になったグラスを頭の上に乗せるポーズを取った。

彼らは私よりも4〜5歳ほど年上だったが、結局は全員が同じ穴のむじなだったのだ。

しばらく沈黙が続いた。酒を浴びながら宝くじが当たったらなどという妄想を語っている間は、現実から目を背けることができたのに。

「なーんか楽しいことないかな〜っつてな」

テーブルに突っ伏したまま両腕で顔を覆った杉本さんの言葉が、『一休』の片隅を支配していた沈黙を破った。

杉本さんの言葉から少し間を置いて、寺山さんがあらぬことをつぶやいた。

「じゃあ……合コンでもやるか!」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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