六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編20】ピアノ・レッスン

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突然の切り返しに、私は激しく狼狽してしまった。確かに今まで何度か『森さん』と呼んだことはあったかもしれないが、うっかり下の名前で呼んでしまった。しかも、それをまんまと突っ込まれてしまった。

「楽器、習ってたことあるよ。小・中の九年間、ピアノ習ってた」

裕子さんは、私の動揺を楽しむかのように、僅かな笑みを浮かべながら答えた。

「あ、あぁ。だったら多分できますよ。ウラで止めるんですよ。切れ目の7を4分音符だと考えて、そのウラの8分音符のタイミングで止めてみてください」

それを聞いた裕子さんは、左手の手のひらに右手の握りこぶしをポンと叩いて『なるほど』というポーズを取ってみせた。我ながら良い作戦だと思う。実際、私自身がこの方法で多くの機種を打ちこなしていたのだ。

「じゃあ、まずは切れ目の7を4分音符に見立てて……イチ、ニイ、サン、シイ……」

またしても裕子さんの首が赤べこの置物のように揺れる。

「それで、これのウラのリズム。『トォ』のタイミングで止めてみてください。いきますよ?いいですか?イチ・トォ・ニイ・トォ・サン・トォ・シイ・トォ!!」

初心者向けのピアノ教室のような掛け声と共に左リールに停止した図柄は『ブドウ・リプレイ・ピエロ』だった。見事、枠上のチェリーに邪魔されて、リプレイがテンパイラインの一コマ上でピタリと停止している。よほど嬉しかったのか、裕子さんが私の右肩を何度も叩いてくる。

「すごい!さすが先生!あと、敬語!」

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  • 枠上チェリーのキック力によって、リプレイが下段まで届かない。枠上チェリーのキック力によって、リプレイが下段まで届かない。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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