六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編26】暗黙の了解侵犯

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「ちょっとお花摘んでくるから、先に戻ってて」

店に戻ると、裕子さんはそう言って私の肩をポンと叩いた。私が一人でジャグラーのシマへと戻ると、全員の視線が一斉に集まり、一瞬動揺してしまった。だが、その理由はすぐに分かった。7が揃えられたまま盛大なファンファーレを垂れ流し続ける裕子さんの台がそこにあったからだ。

おずおずとその台に近づくと、手前に座っていた客が、ドアをノックするかのように私の右肘のあたりを二三度叩いてきた。

「お兄さん!ビッグ中に長いこと席離れんなよ。羨ましくてしゃーないやろ」

その男は、裕子さんの台を指差しながらニヤリと笑った。もちろん、その言葉に皮肉が含まれていることは容易に理解できた。要するに「うるさいからビッグ中に席を立つな!」ということだ。「ボーナスは速やかに消化するべし」という暗黙のルールがあることは当然知ってはいたが、今回だけは見逃していただきたい。口には出さなかったが、心の中でそう詫びて、男に軽く頭を下げた。

私が自分の台に座ると、ちょうどシマの影から裕子さんが現れた。ファンファーレが鳴り続ける隣の台を私が指差すと、裕子さんはすぐに事態を把握したのか、頭を抱えながら小走りで駆け寄ってきた。裕子さんはちょこんと席に座ると姿勢を正し、横目でチラリと私の方を見て、何事もなかったようにビッグボーナスを消化し始めた。

ビッグボーナスを消化し終えると、裕子さんは満タンになった下皿に目を落とし、静かに口を開いた。

「……さっきの話だけど」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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