六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編32】対面に座る、男と女

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「僕はカフェオレをホットで」

「アタシはレモンティーをお願いします」

店のマスターと思しき初老の男性は、低くしゃがれた声で「かしこまりました」と言い残し、厨房へと踵を返した。その後姿を見送ると、裕子さんは両手で口と鼻を覆うような格好でこちらに視線を向けた。顔の半分以上が両手で隠されていたものの、垂れ下がった目尻から笑顔であることは容易に判断できた。

「な……なんですか?」

「えー?ううん、別に。なんか楽しくなっちゃって」

今度は両手で頬を優しく押さえるようにして、じっと私の目を見つめてきた。私は動揺を悟られないように、本題へと入った。

「と……とりあえず、当日の打ち合わせをしましょう」

「うん」

「まず、約束の時間よりも三十分くらい早く、僕だけがこの店に入ります。今座ってるこのあたり、状況次第ですけど、店の奥の方に座るつもりです」

「うんうん」

「そして、その十分後くらいに裕子さんが入ってきてください」

「うん」

「座るのは、店の入口に近いテーブル席に。あのあたりの席だとベストかもしれませんね」

私は入り口に一番近い四人がけのテーブル席を指差した。

「座るときは、僕のほうを見られる席に座ってくださいね。そうすれば裕子さんからは僕が視界に入るし、『トイメン』に座ることになる千夏さんからは僕の姿は見えない、と」

「『トイメン』って何?」

「あぁ、『トイメン』っていうのは、テーブル挟んで向かい側ってことです。すみません、麻雀用語でした」

「ふーん。今度、麻雀も教えて!」

「え!?えぇ、まぁいいですけど……」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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