六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編33】ルイ・アームストロング「ホットカフェオレです」

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「段取りはそんな感じで、あとは裕子さんの話術にかかってますから」

「プレッシャーかけないでよー!」

「大丈夫です。いざとなったら……」

そこまで口にしたところで、先ほどのマスターと思しき男性が注文の品を運んできた。店内に流れるジャズのBGMに「ホットカフェオレです」という低くしゃがれた声が絶妙に乗った。まるでルイ・アームストロングのライブのようだと思い、僅かに口角が上がってしまった。

「何?イキナリ笑ってぇ」

私の変化を目ざとく見つけた裕子さんが、こちらの顔を覗きこんでくる。私は顎に手を当てて咄嗟に取り繕った。

「いや、何でもないんです。えーっと、何の話でしたっけ?」

「いざとなったら?」

「あぁ、そうでした。いざとなったら僕が出て行くんで、心配しなくても大丈夫です」

裕子さんは運ばれてきたレモンティーに角砂糖を一つ入れると、銀のスプーンでくるくるとかき回した。カップとスプーンがぶつかり合って時折聞こえてくる「カチャ」という音が妙に心地良く感じた。裕子さんは、カップの中にできた渦を眺めながら、静かに口を開いた。

「うん、頼りにしてる」

そのはにかんだような口ぶりに、私の心臓は強く脈打った。裕子さんは、スプーンを静かにソーサーへと置くと、カップに目を落としたまま続けた。

「たぶん………」

そこまで言うと、裕子さんはレモンティーを口へと運んだ。立ち昇る湯気が、前髪のあたりで中空へと消えていく。私は黙って次の言葉を待った。

「たぶん……友達ひとり無くすような気がするけど……いいんだ、これで」

それはまるで、自分自身に言い聞かせる『独白』のようだった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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