六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編34】佐藤洋一郎じゃないですから

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次の日曜日。私と裕子さんは、新宿駅から程近いパチスロ屋の店内にある、休憩スペースのソファに腰掛けていた。

「それにしても、似合ってないよ!その帽子!」

「仕方ないじゃないですか、これしかなかったんですから!」

私が変装のために被ってきた緑色のハンチング帽を指差しながら、裕子さんは大爆笑した。

「千夏さんとはこないだの合コンで顔合わせたばかりなんですから、変装しないとマズイでしょう?」

「だって、なんか競馬場にいる怪しい人みたいなんだもん」

「僕は佐藤洋一郎じゃないですから」

「誰それ?知らないよ!」

なおも爆笑を続ける裕子さんを尻目に、私は持参した伊達メガネをかけた。ここまでやれば、親しい友人や家族であろうとも、ひと目で私だと気がつく人はいないのではないだろうか。

伊達メガネをかけると、なぜか裕子さんの笑いが止まった。そして、マジマジと私の顔を覗き込み、

「ちょっと、そのメガネかけたまま、その妙な帽子取ってみて」

『妙な』という言葉にやや引っかかったが、私は言われるがまま帽子を取り、手ぐしで髪の毛を整えた。

「うん!メガネだけだとイイね!知的な感じがしてイイよ!」

「……そうですか、ありがとうございます。まぁ今日はそういうことじゃないんですけどね」

私がそう言いながら帽子を被り直すと、裕子さんはまたしても顔を伏せて笑い出した。こっちは真剣にやっているのに困ったものだ、などと思いつつも、内心は悪い気はしていなかった。

「じゃあ僕はそろそろ行きますよ。あと三十分くらいで待ち合わせ時間になっちゃいますし」

「そうね、外まで送っていくよ」

「いや、ここでいいですよ。万一、二人でいるところを千夏さんに見つかりでもしたら誤魔化すのが大変ですしね」

私がそう言うと、裕子さんは「そっか」と小さく頷いた。

「それじゃあ、喫茶店で」

「うん、よろしくね」

私が店の外へと向かおうとしたとき、裕子さんが私の二の腕を強く握りしめた。振り返るとそこには、先ほどまでとは打って変わって不安と緊張で顔を強張らせた裕子さんの姿があった。

「大丈夫ですよ、心配しなくても」

私はそう声をかけ、二の腕を掴んでいた裕子さんの手を優しく二度叩いた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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