六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編35】決戦場へと……

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待ち合わせ場所の喫茶店に入ると、地を這うように低い「いらっしゃいませ」の声が聞こえてきた。前回来た時と同じ、この店のマスターと思しき初老の男性の声だった。私はメガネをかけ直すふりをしながら、店内の客を全てチェックした。まだ千夏さんは来ていないようだ。私は店の一番奥のテーブル席を指差し、マスターの顔を見た。マスターは私にしか聞こえないくらいの小さな声で「どうぞ」と発し、メニューとお冷の準備を始めた。

「ホットのカフェオレを……」

注文を取りに来たマスターがメニューを開く前に、前回と同じものを注文した。マスターは何も言わず軽く会釈をしながらお冷を置き、厨房へと消えていった。ここまでは何も問題は無い。入り口近くのテーブル席も今のところ空席だ。数分後に来る裕子さんがその席に座ってくれれば、とりあえずの手はずは整う。

私は、裕子さんに散々笑われた緑色のハンチング帽を目深に被り直し、静かに時が過ぎるのを待った。

「ホットカフェオレでございます」

マスターが注文の品をテーブルに置くと同時に、店のドアが開く音がした。裕子さんだ。裕子さんはすぐに私の姿を確認できたようで、打ち合わせ通り、店の入口に近い四人がけのテーブル席に座った。これで、私と裕子さんはお互いの動きを確認でき、あとで来る千夏さんは私の方に背中を向ける格好になる。準備は整った。

裕子さんはマスターに何かを注文した後、すぐに携帯電話を取り出した。それから一分も立たずに私の携帯が震えた。

『帽子似合ってるよ』

その文面を確認してから横目で裕子さんの方を向くと、立て肘をついてすまし顔で窓の外を眺めていた。

『こんなに緑のハンチング帽が似合うのは、僕くらいですよ』

裕子さんが私からの返信を見て口元を押さえた時、店のドアがゆっくりと開いた。

本日の主役が登場した。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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