六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編36】大チョンボ

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淡いベージュのワンピース姿は、一見するとどこにでもいるような普通の女性だった。だが、腰まで伸びた長い髪は、紛うことなき千夏さんのそれだった。裕子さんと千夏さんは、ほとんど同時にお互いの存在に気が付き、至近距離で手を振り合っている。すぐに裕子さんは千夏さんを向かいの席へと促した。千夏さんは私の存在にはまったく気がついていないようだ。

二人が注文した飲み物がテーブルへと運ばれ、マスターが厨房へと戻っていく。その姿を横目で見届けながら、私は大きなミスに気が付きつつあった。

二人は早速、身振り手振りを交えながら楽しげに会話を始めているようではあるのだが、肝心の会話の内容がほとんど私の耳まで届かないのだ。時折聴こえてくるのは裕子さんの笑い声くらいで、それ以外はほぼ聴こえてこない。二人の会話を聴こうとすればするほど、先ほどまでは気にもとめなかった店内のBGMがやけに大きく聞こえてくるから不思議だ。店の入口と一番奥では、これほどまでに声は届かないものなのか。情けないミスに落胆しつつも、善後策を講じなければならない。

――席、移動するか?

ちょうど、千夏さんの背後のテーブル席が空いている。あの席ならば二人の会話は筒抜けになるだろう。だが、右手にホットカフェオレ、左手にソーサーを持って席を移動するとなれば、否が応にも店内の視線を独り占めにしてしまいそうだ。その時に千夏さんが振り向いてしまえば万事休す。全てがご破算になってしまう。

どうしたものかとハンチング帽の上から頭を抱えていると、突然、ズボンのポケットにしまい込んでいた携帯電話が震えだした。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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