六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編39】背中を伝う汗

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「ふーん、付き合う気無いんだ。……だったらイイんじゃない?」

「イイって、何が?」

「だから……こないだ電話で言ってたこと」

千夏さんは、右手に嵌めた指輪を眺めながら、含みのある言い方をした。

「あぁ……えーっと、なんだっけ?」

「だからさ、貢がせたいって言ってたじゃん、長崎くんに」

千夏さんは、先ほどまでの談笑の時とは打って変わって、軽薄な口調で本題に入っていった。裕子さんは本題に入ったことで一気に動揺しているようだった。

「貢がせるだけだったら簡単じゃん。『このバッグ買ってー』とか猫撫で声で言えば楽勝でしょ」

「……あ、うん」

「『この指輪欲しいー』とか高価な物おねだりしてさ。まぁ長崎くんはそんなにお金持ってない、っていうか貧乏だろうから、ギリギリ買えるくらいのものがイイだろうけどね」

「……まぁ、そうだね」

私は、千夏さんの言動がまたたく間に下品に変貌していくことに、驚きを禁じ得なかった。化粧っ気のない地味な印象の千夏さんからそんな発言がポンポンと出てくることが、にわかには信じられなかった。私と同様に、裕子さんも面食らっている様子だ。やはり、裕子さんも見たことがない千夏さんの一面だったのだろう。

私と裕子さんの動揺を無視するかのように、千夏さんは矢継ぎ早に続けた。

「まぁモノで貢がせるのが一番ラクなんだけど、あとで換金するのが面倒なんだよね。ブランド物のバッグだったら新宿に高く買ってくれる質屋知ってるけどね。……でも」

そこまで言うと、千夏さんはお冷を口にした。裕子さんは呆気にとられて何も言えず、身じろぎひとつしない。

「でも……長崎くんと付き合う気も無いっていうなら、手っ取り早く追い込んじゃう方法もあるけどね」

私は店の片隅でひとり、背中に伝う汗を感じていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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