六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編40】『誠意』ってことだよね

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店内にはデイブ・ブルーベック・カルテットの名曲「テイク・ファイブ」が流れていた。5拍子のウエストコーストジャズに乗せて、千夏さんの独演会が続く。

「私の知り合いにそういうのが得意な人がいるんだ」

「……『そういうの』って?」

「んー?だから、上手に追い込んじゃうの。アタシも協力したりするんだけどね。今まで一度も失敗したことないよ」

私は静かに椅子の背もたれへと身体を預けた。背中を伝った汗が腰まで届き、濡れたトランクスのゴムが不快感を増幅させた。私は人差し指と中指でこめかみの辺りを強く押し、混乱しそうになる頭を冷静に保つように務めた。

「……で、その……『追い込む』って、具体的にどういうことするの?」

チラリと二人の方に目線を向けると、裕子さんは姿勢を正して椅子に座り、真っ直ぐ千夏さんの方を向いていた。ただ、友人の本性を垣間見てしまったことへのショックからだろうか、その表情はこわばり、心の余裕は微塵も感じられなかった。

「だからー……例えばだけど、適当な男の人に頼んで言ってもらうわけ。『俺の女だって知っててやってんのか?』ってね。そうすれば、だいたいの男は引き下がっちゃうよ。もちろん、その時に『お詫びのしるし』みたいなの貰うことになるけどね」

「『お詫びのしるし』って?」

「だからさー、まぁ『お金』ってことになるよね。でもハッキリ『お金』とは言わないよ!あくまでも悪いことをしたお詫びに、向こうが勝手に払っちゃったってことにしないとマズイからね。相手方の『誠意』ってことだよね」

誠意。私はその言葉を聞いて堀口の顔が脳裏をよぎった。私は額の汗を拭って、ハンチング帽をかぶり直した。店内のBGMはロバータ・フラックの『やさしく歌って』に変わっていた。確かこの曲の原題は『Killing Me Softly』だったか。そのやさしい歌声とは対照的に、千夏さんの口から次々と飛び出てくる言葉は、私を『激しく殺して』くれた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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