六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編43】「遅い!」

←BACK【恋慕編42】千夏さん、お久しぶり……

裕子さんの、絞り出すように紡がれた『友人への』言葉は、千夏さんの鼻先で笑われ、粉々に砕けてしまった。

「知ってて持ちかけてきたんでしょ?ムカつくわねー、アンタたち」

この瞬間、私の二の腕を握りしめていた裕子さんの手から、力が抜けていくのが分かった。隣で目に涙を浮かべ、口を尖らせている裕子さんを見ていると、こんなことに巻き込んでしまったことを心底後悔した。私は赤ちゃんを寝かしつけるように、裕子さんの背中をポンポンと二度叩いた。今、裕子さんにしてあげられることはこれくらいしか思いつかなかった。

「だからなんなのよ!?私のこと訴えるの?バカらしい」

千夏さんはさらに語気を強めた。悔しいが、現状では何も被害を受けていない我々が千夏さんを訴えることなどできるハズもない。だが、私にはどうしても訊かなければならないことが残っていた。

「堀口……覚えてますか?水道橋駅の近くにある『デルタ』ってスロット屋で知り合った男がいたでしょう?背の高いマッシュルームみたいな髪型した……」

そこまで言うと、千夏さんは手を叩く素振りをしながら笑い出した。

「あぁ!いたいた!あのマッチ棒みたいなヤツね!」

マッチ棒とは私が心の中だけで堀口を呼ぶ時に使っていた愛称だ。確かに、若干風貌を揶揄しているので褒められたものではないが、私は決して口に出すことはなかったし、何よりあんたに言われるのは腹立たしい。

「マッチ棒じゃなくて堀口ですよ。堀口はどうしたんですか!」

「知らないわよ!ちょっとだけ金置いて消えちゃったんじゃなかったっけ?まったく、ヤラれ損よ!」

これ以上無いほど最低な回答に、私はただ脱力するしかなかった。もはやこの人と会話を続けることすら嫌気が差してきた。そろそろこの探偵ごっこも終わりにしなければならない。そう考えていた刹那、

「遅い!」

千夏さんが、私の後方を指差して大きな声を上げた。

次の瞬間、私の両肩に激痛が走った。

→NEXT【恋慕編44】めり込む、親指

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

7月≫
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

戻る