六本木ヒルズからの七転八倒

【恋慕編46】I’m A Loser

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「もードキドキしたねー!!」

喫茶店から100メートルほど離れたところで、裕子さんがせきを切ったように話し始めた。

「あーもう!怖かったよー!!何なのあの男ぉ!!超デッカイしさー!!」

裕子さんは泣きながら笑っていた。それを見ていると、私もなんだか涙が込みあげてきたが、ここはぐっと我慢することにした。

「大丈夫だった?背中?」

「あぁ、もう全然大丈夫ですよ。指で押されてただけですからね」

私は精一杯のやせ我慢をしてみせた。正直、今でもジンジンと痛みが走っている。だが、これ以上裕子さんに心配させるわけにもいかない。私は軽く肩をさする仕草をしてから話題を変えた。

「でも……驚きましたね、千夏さんには」

「そうだね……でも、もういいよ!あんな女!だってメチャクチャじゃん!超悪党だったよ!信じられない!」

「確かにそうですね。あのコージって男も、たぶん堀口の時とは違う男ですね」

「え!じゃあ何!美人局の相方も取っ替え引っ替えってこと!?」

「おそらく、そういうことだと思いますね」

裕子さんは呆れたように目を大きく見開いた。

「それにしても、このハンチング帽。女性ウケが悪いんですかね。千夏さんにもダサイって言われちゃいましたよ」

「いいよ!似合ってるよ。あんな女の言うことなんて信じちゃダメだよ!」

「裕子さんも似合ってないって言ってたじゃないですか……」

「いいの、そういうことは!もうアイツらのことは忘れよう!ねっ!」

そう言って、裕子さんは私の手を握った。私たちは西日を背にして、長く伸びた影を追いかけるように歩いた。

「よーし!スロット打ちにいこうよ!こういう日は勝てるんだよ、きっと!」

「ホントですかぁ、今日は日曜ですよ。そんなに簡単に……」

「曜日など関係ない!己のヒキでペカらせれば問題ない!I'm a Winner!」

裕子さんは右腕でガッツポーズのような格好をして、そのまま握りこぶしでレバーを叩く仕草をした。さっきまで半べそ状態だった人とは思えないその元気に、私も嬉しくなった。

「あ、思い出した」

「何を?」

「曲名です。あの店を出る時に流れてたビートルズの曲」

「よくあの状況で音楽なんて聴いてる余裕あったね。で、何て曲?」

「I'm A Loserです」

「うわぁ!スロット行く前に不吉!!」

「関係ないですよ!!」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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