六本木ヒルズからの七転八倒

【痔瘻編20】ふたつの肉片

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岡田先生の机に貼りだされた画像を見て、私は思わず眉をひそめた。そこには、私の肛門付近が映し出されていた。そこには、赤く盛り上がった肉片が二つ、肛門の左側に広がっていたのだ。

「まぁこれは順調な方ですよ。ここがググっと盛り上がって、最終的には完全にくっついていきます」

赤い肉片をボールペンの先で指し示しながら、岡田先生は続ける。

「とにかく、これまでの入院生活同様に、便をコントロールすること、お尻を清潔に保つこと。あと、長時間同じ体勢で座り続けるようなことはなるべく避けるようにしてください」

私は岡田先生の話を聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾けた。それと同時に、いよいよ明日、外の世界に戻れるという喜びを、静かに噛み締めた。

岡田先生の説明が終わると、私は「お世話になりました」と深く頭を下げた。岡田先生は「くれぐれもお大事に」と笑顔で応えてくれた。

私が病室に戻ろうと席を立った時、ナースステーションのそこかしこから、小さな声で「退院おめでとうございます」という祝福の声が聞こえてきた。それは、私に向けられた祝福の輪だった。私は照れくさかったが「ありがとうございます、お世話になりました」と、精一杯の謝辞を述べた。

だが、その輪の中、ポニーテールは無かった。

翌朝、十日ぶりに私服へと着替えた私は、入院費の支払いを済ませるため、一階の受付へと向かった。およそ十三万円を現金で支払い、玄関へと向かった。その時、背中を軽く二度叩かれ、振り返った。そこには、ポニーテールが揺れていた。

「退院おめでとうございます。これ、よかったらどうぞ。ナースステーションにあったお土産ものなんですけどね」

彼女はいたずらっぽい笑顔で、小さなマドレーヌをひとつ手渡してくれた。

「あ……ありがとう。いろいろお世話になりました」

私は深くお辞儀をし、玄関の方へときびすを返した。病院独特の音を立てて自動ドアが開く。私は、十日ぶりの外の空気を思い切り肺の中へと吸い込んだ。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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