六本木ヒルズからの七転八倒

【落札編11】消えた男

←BACKパソコン版【落札編10】おけら街道の由来
←BACKスマホ版【落札編10】おけら街道の由来

私たちの10メートルほど前方に、青いリュックを左肩にかけた男の姿を見つけた。キャップを被り、グリーンのネルシャツを着たその男は、間違いなく昼食時に一悶着あったあの男と同一人物だった。

私はその男を発見したことを裕子に伝えようとしたが、自重することにした。裕子に報せてしまうと彼女の怒りが再燃しかねないと思ったからだ。

私は何も見なかったことにして、話を続けた。

「『おけら街道』っていうのはさ……『おけら』って虫がいるわけよ。その虫が……」

「あっ!!アレ見て!!」

私の話を遮るように、裕子が前方を指差した。その指の先には、例の男の後ろ姿があった。

「アレ、レストランの男だよ!あのリュック、ホラッ!」

裕子は妙にテンションが上がり声のボリュームが大きくなっている。本人に聞こえてしまうのではないかとヒヤヒヤする。

「あぁ……そうかもね」

「そうかもじゃなくて、間違いないでしょ!あのダサイネルシャツ着てたじゃん!」

「まぁ、仮にそうだとしても、どうすんのよ?」

「……文句言う」

本気で言う気など無いのは分かっている。

「言わないでしょ、こっちに実害があったわけじゃないんだし。それに彼だって、どうせ俺らと同じように『おけら』なんだよ」

「……うん」

納得がいかないような表情ではあるが、裕子は無理矢理矛を収めてくれたようだ。
私はあらためて話を戻した。

「『おけら』は正面から見たら両手をバンザイしてるように見えるんだよ。だから、一文無しになってお手上げ状態ってことから『おけら街道』なんだってさ」

「じゃあ勝って帰るときは何街道になるの?」

裕子の子供のような切り返しに、私は答えに窮した。

前方に視線を向けると、先ほどの男はすでに人混みに消えていた。

→NEXTパソコン版【落札編12】車内はひじき
→NEXTスマホ版【落札編12】車内はひじき

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

6月≫
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

戻る