六本木ヒルズからの七転八倒

【初打編01】こういう子ですから

「俺ならプロになれると思います」

高校二年の春、父と担任教師を交えた三者面談で、私は言い放った。若者特有の、根拠の無い自信に満ち溢れていたのだろう。

 

「すみません、こういう子ですから」

 

父は恐縮していたが、その顔はどこか誇らしげに見えた。ビートルズに傾倒し、グループサウンズに青春を焦がした自分自身と重ねていたのかもしれない。

 

18歳の春。地元の高校卒業した私は上京し、プロのギタリストを目指すべく「SPEミュージック」に通い始めた。「SPEミュージック」にはギター・ベース・ドラム・ヴォーカルなどのコースがあり、元プロの講師から授業を受けることができた。

 

地元では自身のバンドがテレビの取材を受けるなど、多少は天狗になっても許されるレベルだと自負していた。

 

だが、「SPEミュージック」に通い始めてすぐ、そのちっぽけなプライドは脆くも崩れ落ちた。同世代の生徒達のレベルの高さに全くついていけなかったのだ。課題として出された曲を自分だけ上手く弾けない。譜面もロクに読めない。生徒一人ひとりの演奏を録音して聞き比べる授業は本当に地獄だった。

 

同じだけの時間を過ごしてきたはずなのに、その中身は全く違っていたのだろう。授業に出れば出るほどプライドが傷つき、次第に疎外感を感じるようになっていった。所詮、井の中の蛙だったことを強烈に思い知らされる。

 

短い夏休みが終わり、秋季カリキュラムが始まる頃、目覚まし時計のアラームをセットしなくなった。

 

「今日は疲れたから、明日は起きれたら行こう」

 

最初から行くつもりなど無いのに、くだらない言い訳を作っては自分を誤魔化した。大海に放り出された蛙は、逃げるように新しい井戸を探しはじめた。

 

季節が秋から冬に変わり、19歳の誕生日が近づいた頃、東京大学のお膝元である文京区本郷に居を構える雀荘「ライズ」でアルバイトを始めた。雀荘の店員は、客と一緒に麻雀を打つことが主な仕事だ。麻雀卓の清掃なども一応仕事ではあるが、そんな事は暇つぶしにすぎない。客さえいれば、朝から晩までとにかく打ち続ける。なんだったら客がいなくても店員同士で打ち続ける。

 

一体いつからが勤務時間で、いつからがプライベートなのかもハッキリしないまま、ただただ打ち続ける。半分、いやほとんど遊んでいるようなものなのだから、たとえ給料が雀の涙でも文句は言えない。そんな仕事だけに、集まる人間もどこかクセのある人間ばかりだった。

 

バツ2で2人の子持ちの24歳。

右翼の街宣車の運転手だった過去を自慢気に語る47歳。

キャバ嬢に貢ぐことが生きがいの30歳。

ヤケに腰は低いが、背中に大きな「絵」が書いてある44歳。

 

一言で言うならば「ダメ人間」の集まりだった。だが、新しいこの「井戸」はそれなりに居心地が良かった。

 

そんなダメ人間の中に「堀口」という男がいた。

 

NEXT【初打編02「ダメ人間、堀口」

 

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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